職場における熱中症対策が義務化 企業で求められる熱中症対策|未来労働衛生コンサルタント事務所|名古屋市瑞穂区の産業医・労働衛生コンサルタント

トピックス TOPICS

職場における熱中症対策が義務化 企業で求められる熱中症対策

公開日:2025/5/12

2025
年6月1日から、労働安全衛生規則が改正され、職場における熱中症対策が義務化されます。

 

  • 参考:東京新聞(2025年4月15日)「職場の熱中症対策、義務に 罰則付き、早期対応促す」

https://www.tokyo-np.co.jp/article/398622

 

対策義務化の対象はWBGT値(暑さ指数)28度以上または気温31度以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間を超えることが見込まれる作業です。事業者は、熱中症罹患者の報告体制の整備や、熱中症の悪化を防止する措置の準備を行い、作業従事者に対して周知させなければなりません。事業者が対策を怠った場合、6月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。

職場における熱中症対策の強化、義務化された背景、企業で求められる熱中症対策について解説します。

 

目次

1 熱中症とは

2 職場における熱中症対策義務化の背景

3 企業で求められる熱中症対策

 3―1 対策義務化の対象・内容

 3-2 作業環境管理

 3-3 作業管理

 3-4 健康管理

4 まとめ

1 熱中症とは

「熱中症」とは、高温多湿な環境下で、発汗による体温調節等がうまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態をさします。

初期症状として、手足がつる、立ちくらみ・めまい、吐き気、汗の止まらない、汗が出ないなどがあります。

 

2 職場における熱中症対策義務化の背景

今回の改正に伴い厚生労働省がホームページ上で公表している図(夏季の気温と職場における熱中症の災害発生状況)を下記に示します。

https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001476824.pdf



令和3年(2021年)から令和5年(2023年)にかけて熱中症の死傷者数が増加していること、令和4年(2022年)・令和5年(2023年)と熱中症の死亡者数は30名程度であること、夏季の気温が高い傾向があることがわかります。また、熱中症は死亡災害に至る割合が、他の災害の5~6倍とのデータ、熱中症死亡災害(令和2~5年)103件中100件が、初期症状の放置・対応の遅れ(発見の遅れ(重篤化した状態で発見)78件、異常時の対応の不備(医療機関に搬送しない等)41件)があったとの分析結果もあります。

このような状況もあり、現場において死亡に至らせない(重篤化させない)ための適切な対策の実施が必要であり、職場における熱中症対策強化を促すため、企業に対する法的な対応義務が明確化されました。

 

3 企業で求められる熱中症対策


3-1 対策義務化の対象・内容

対象はWBGT値(暑さ指数)28度以上または気温31度以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間を超えることが見込まれる作業です。

熱中症の重篤化による死亡災害を防止するため、熱中症のおそれがある労働者を早期に見つけ、その状況に応じ、迅速かつ適切に対処するため、「体制整備」、「手順作成」、「関係者への周知」が事業者に義務付けられます。厚生労働省から示されている資料から企業が求められる対策は、以下のようにまとめることができます。

 

報告のための体制整備
熱中症の自覚症状がある労働者、またはその状況を確認した者が速やかに報告できるよう、担当者や連絡体制を事業場ごとにあらかじめ明確に定め、労働者に周知する

必要な措置および実施手順の整備
熱中症の重篤化を防ぐため、作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じ医師の診察・処置や救急搬送など、必要な対応手順を、事業場における緊急連絡網や緊急搬送先の連絡先・所在地等も含め文書で整備し、事前に労働者に周知する

周知方法の例として、朝礼やミーティングでの周知、会議室や休憩室などわかりやすい場所への掲示、メールやインターネットでの通知などがあります。労働者に熱中症対策を理解してもらえるよう、各企業、事業所にあった方法で周知することが望まれます。

 

熱中症対策の具体的な内容や実施方法などは、追って通達で示される予定となっており、そちらの内容も参照ください。

 

次に、労働衛生の3管理に基づく熱中症対策例を説明します。

 

3-2 作業環境管理

  • WBGT値(暑さ指数)の把握・評価、低減

WBGT値とは、熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数のことで、下記の計算式で算出されます。

(屋外で日射のある場合)WBGT = 0.7 × 湿球温度 + 0.2 × 黒球温度 + 0.1 × 乾球温度
(屋内、または日射のない場合)WBGT = 0.7 × 湿球温度 + 0.3 × 黒球温度

 

実際の把握方法としては、WBGT値が測定可能な温度計で作業場の環境を測定・評価する、もしくは、環境省「熱中症予防情報サイト」(https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_data.php)などで作業場の暑さ指数を推定している事業場がほとんどです。

厚生労働省が示す「身体作業強度等に応じた WBGT 基準値」(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei33/dl/01.pdf)に基づき、実施作業のWBGT基準値(身体作業の強度などに応じて暑熱を許容できるラインを示した値)を確認し、WBGT基準値を超えることが見込まれる場合は、設備対策(例:簡易な屋根、冷房設備、散水設備の設置)など作業環境改善することが望ましいです。

 

  • 休憩場所の整備

冷房を備えた休憩場所や涼しい休憩場所を確保してください。また、休憩場所に体をクールダウンさせる冷たい飲み物を準備、労働者に摂取を推奨することで熱中症発症リスクが低減します。

 

3-3 作業管理

  • 作業時間の短縮

作業計画に基づき、暑さ指数に応じた休憩をとる、作業中止を判断するなど対応してください。

 

  • 水分・塩分の摂取

自覚症状の有無に関わらず、水分・塩分の作業前後の摂取、作業中の定期的な摂取を指導してください。

暑さ指数が非常に高い環境で作業する場合は、プレクーリング(作業前や休憩時間中に深部体温を下げる。例:手足の冷却、シャーベット状のアイススラリーなど冷たい飲み物の摂取)を行うことが望ましいです。

 

  • 服装

透湿性や通気性の良い服装を準備してください。また、暑さ指数が非常に高い環境で作業する場合は、送風や送水により身体を冷却する機能を持つ服(空調服など)の着用も検討してください。

 

3-4 健康管理

  • 健康診断結果に基づく対応

右に記載する疾患(糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全、精神・神経関係の疾患、広範囲の皮膚疾患、感冒、下痢を持った方は、必要時応じ、医師等(主治医や産業医など)の意見を聴取し、就業制限・配慮してください。

 

  • 日常の健康管理

作業当日の朝食の未摂取、睡眠不足、前日の多量の飲酒が熱中症の発症に影響を与えることを指導するとともに、作業前に確認してください。

 

  • 作業中の労働者の健康状態の確認

巡視中に頻繁に声をかける、「バディ」を組ませるなど労働者にお互いの健康状態に留意するように指導してください。

また、労働者が何かしら体調不良を自覚した際に、作業責任者や周囲の労働者に申告しやすい雰囲気づくりも大切です。体調不良を早期に申告、周囲が状況把握、対処することで、熱中症の重篤化防止につながります。

 

上記以外にも、熱中症の症状、予防方法、緊急時の救急処置などを取り扱う労働衛生教育や総括管理により職場全体で熱中症対策に取り組んでください。

 

4 まとめ

  • 2025年6月1日施行の労働安全衛生規則改正により、WBGT値(暑さ指数)28度以上または気温31度以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間を超えることが見込まれる作業がある場合、職場における熱中症対策が義務化される。
  • 労働衛生の三管理(作業環境管理、作業管理、健康管理)に基づく、熱中症対策を検討、実施することで、職場における熱中症発症・重篤化防止につながる

 

当事務所は、事業場の現状、要望を聞きながら、親切、丁寧に対応します。

今回紹介した熱中症対策についての医師、産業医目線からのアドバイスも含め、産業医選任、業務委託などでお困りの企業様は、お気軽にお問い合わせください。