常時使用する労働者に対して定期的に健康診断を実施することが労働安全衛生法で規定されており、ほぼ全ての事業場で健康診断を企画、実施し、労働者は健康診断を受けています。健康診断は実施して終わりでなく、健康診断後の対応、「健康診断の事後措置」が重要ですが、十分な対応がとられていない企業も散見されます。今回は、健康診断の事後措置のポイントと産業医の役割について詳しく解説します。
目次 |
1 健康診断の種類と目的
2 一般定期健康診断の実施と事後措置の流れ
2-1 一般定期健康診断の実施
2-2 健康診断結果の本人への通知
2-3 必要がある場合の二次健康診断の受診勧奨等
2―4 健康診断結果についての医師等からの意見聴取、就業上の措置の決定
2-5 健康診断結果の記録
3 まとめ
1 健康診断の種類と目的 |
健康診断には様々な種類がありますが、下記のように大別できます。
<一般健康診断>
労働者の一般的な健康状態を把握するための健康診断。雇入れ時健康診断、一般定期健康診断などがあります。
<特殊健康診断>
労働衛生対策上、特に有害であるといわれている業務に従事する労働者を対象として実施するもので、有害業務に起因する健康障害の状況を調べる健康診断。
<通達で示されている健康診断>
法令に基づく健康診断以外に、業務の種類によって通達で実施するよう示された健康診断。騒音作業や振動工具の取扱い業務などが対象。
各健康診断で事後措置が必要ですが、今回の記事では、常時使用する労働者すべてを対象として毎年実施する、一般定期健康診断について解説します。
2 一般定期健康診断の実績と事後措置の流れ |
一般定期健康診断の実施と事後措置の全体像は下記の通りです。
1.一般定期健康診断の実施
→「診断区分」の判定
2.健康診断結果の労働者への通知
<所見がある場合>
3.必要な場合の二次健康診断の受診勧奨、保健指導
4.健康診断結果についての医師等からの意見聴取
→「就業区分」と「医師の意見」の判断
5.就業上の措置の決定等
6.健康診断結果の記録
労働者の健康状態を把握するとともに、労働者が安全で健康に働くため、就業することにより健康障害を悪化させないために必要な対応です。
以降、各項目について解説します。
2-1 一般定期健康診断の実施 |
健康診断を実施し、労働者ごとに「診断区分」(異常なし、要観察、要医療等の区分)に関する医師等の判定を受ける必要があります。ここで言う「医師等」については、健康診断を実施している機関の医師であることがほとんどです。
2-2 健康診断結果の本人への通知 |
事業者は、健康診断受診者全員に、所見の有無にかかわらず健康診断の結果を文書で通知する必要があります。
2-3 必要がある場合の二次健康診断の受診勧奨等 |
事業者は、健康診断における医師の診断の結果に基づき、二次健康診断の対象となる労働者を把握し、当該労働者に対して、二次健康診断の受診を勧奨するとともに、診断区分に関する医師の判定を受けた当該労働者に対し、二次健康診断の結果を事業者に提出するよう働きかけることが適当とされています。保健指導として必要に応じ日常生活面での指導、健康管理に関する情報の提供、健康診断に基づく再検査又は精密検査、治療のための受診の勧奨等を行うことも重要です。産業医は、要精査、要治療と考えられる労働者と面談し、既往症、治療中の病気の有無、体調、勤務状況などを確認するとともに、健診結果の解説、受診、精査の必要性について話します。
<二次健康診断>
一般定期健康診断で行われる、血圧、血中脂質、血糖検査などの結果に基づき、脳血管や心臓の疾患を発症する危険性が高いと判断された労働者を対象に行う精密検査。
2-4 健康診断結果についての医師等からの意見 |
健康診断の結果について事業者は医師等から意見の聴取を行います。ここで言う「医師等」については、50人以上の事業場では選任された産業医が実施することが望ましいとされています。これは産業医が労働者個人ごとの健康状態や業務内容等を詳細に把握できる立場にあるためです。50人未満の事業場等で産業医が選任されていない場合においては、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学的知識を有する医師であることを考慮して、地域産業保健センターの活用や健康診断の実施機関との連携が求められます。以降、産業医から意見の聴取を行うことを想定して話を進めます。
就業区分の判定と必要な場合の措置の内容を産業医から聴取します。就業区分とは、就業上の措置の必要性の有無を示すもので、例として、下記の図の通り「通常勤務」「就業制限」「要休業」に区分する方法があり、就業上の措置の内容は労働者の作業状況を勘案して意見します。
就業区分 |
就業上の措置の内容 |
|
区分 |
内容 |
|
通常勤務 |
通常の勤務でよいもの |
|
就業制限 |
勤務に制限を加える必要のあるもの |
勤務による負荷を軽減するため、労働時間の短縮、出張の制限、 時間外労働の制限、作業転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少、 昼間勤務への転換等の措置を講じる。 |
要休業 |
勤務を休む必要があるもの |
療養のため、休暇、休職等により一定期間勤務させない措置を講じる。 |
例えば、産業医の意見が「就業制限」という判断となる場合、勤務による負荷を軽減することが目的となり、労働時間の短縮、出張の禁止や制限、時間外労働の禁止や制限、労働負荷の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少、交代勤務や夜間勤務から昼間勤務への転換等の措置が挙げられます。その後、事業者は、産業医の意見に基づき、労働者からの意見も聴取した上で、就業上の措置を決定します。
2-5 健康診断結果の記録 |
事業者は、健康診断の個人票(様式5号)の「医師の意見」欄やそれに準ずる記録に、就業上の措置に関する意見を記入してもらい、記録として残す必要があります。労働安全衛生規則で5年間保存することが義務付けられています。
3 まとめ |
- 法律で定められている一般定期健康診断は、健康状態を把握するとともに、労働者が安全で健康に働くため、就業することにより健康障害を悪化させないために、事業者が実施するもの。
- 事業者は、労働者ごとに医師等から意見を聴取する必要があり、50人以上の事業場では選任された産業医が実施することが望ましい。
- 産業医は、就業上の措置の必要性の有無、就業上の措置が必要な場合は具体的な内容について、事業者に意見する。
当事務所は、事業場の現状、要望を聞きながら、親切、丁寧に対応します。
今回紹介した健康診断の事後措置も含め、産業医選任、業務委託などで困りの企業様は、お気軽にお問い合わせください。