公開日:2026年3月17日
令和8年(2026年)2月10日、厚生労働省は「治療と仕事の両立支援指針」を厚生労働大臣名で公表しました。
※治療と仕事の両立支援指針
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001653964.pdf
これは、令和8年4月1日施行の改正「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(労推法)において、治療と仕事の両立支援が事業者の努力義務とされ、同法にて厚生労働大臣がその指針を定めるとされていることによるものです。
厚生労働省「第1回 治療と仕事の両立支援指針作成検討会」資料2 治療と仕事の両立支援指針の検討 より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001545015.pdf
現在、厚生労働省から治療と仕事の両立支援のためのガイドラインが示されていますが、労推法改正に伴い新たな内容を盛り込み、法律に根拠を持つ指針へと格上げしたことになります。
今回は、厚生労働省の労働政策審議会安全衛生分科会等の資料や、新たな指針(治療と就業の両立指針)を踏まえ、会社(事業主)に求められる取り組み、両立支援における産業医の役割などについて紹介します。
目次 |
1 治療と仕事の両立支援の推進が必要とされる背景
2 治療と仕事の両立支援における産業医の役割
3 新様式:治療と仕事の両立支援カード
4 努力義務化によって変わること
5 治療と仕事の両立支援の推進に取り組むメリット
6 産業医としての関わり(当事務所産業医活動の実際)
7 まとめ
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1 治療と仕事の両立支援の推進が必要とされる背景 |
病気を治療しながら仕事をしている労働者は年々増加しています。厚生労働省によると、何らかの疾患により通院しながら働く労働者の割合は40.6%(令和4年)となっています。高齢者の就労の増加や医療技術の進歩等を背景に、今後も増加が見込まれています。しかし、仕事を持ちながら治療のため通院している患者の全てが健常者と全く同様に働けるわけではなく、治療や病気の影響により働き方に制約が生じることから、一定の配慮が必要となることが多いです。

厚生労働省「第1回 治療と仕事の両立支援指針作成検討会」
資料2 治療と仕事の両立支援指針の検討 より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001545015.pdf
厚生労働省においては、企業等が労働者の治療と就業の両立支援を推進するために取り組むべき事項を整理した「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を平成28年(2016年)に策定し、企業等による取り組みの周知・啓発を図っています。ただ、ガイドラインは、策定後約10年が経過しても中小企業を中心に認知度が低い状況です(2024年調査)。例えば、産業医・衛生管理者の選任が必要となる従業員50~99人の企業では、「ガイドラインを知らない」「聞いたことはあるが内容は知らない」との回答割合が合わせて85.8%でした。

厚生労働省「第1回 治療と仕事の両立支援指針作成検討会」
資料2 治療と仕事の両立支援指針の検討 より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001545015.pdf
2 治療と仕事の両立支援における産業医の役割 |
① 情報提供:治療と仕事の両立支援指針の紹介
「1 治療と仕事の両立支援の推進が必要とされる背景」で紹介した通り、治療と仕事の両立支援ガイドラインの認知度は低い状況です。治療と仕事の両立支援について紹介するとともに、両立支援の趣旨、取り組む意義などについて説明します。
② 助言:環境整備の推奨
治療と仕事の両立支援は、労働者本人から支援を求める申出がなされたことをきっかけに取り組むことが基本です。労働者本人からの申出が円滑に行われるよう、事業場内ルールの作成及び周知、労働者及び管理職等に対する研修による意識啓発並びに相談窓口及び情報の取扱方法の明確化等、申出が行いやすい環境を整備することも重要です。そのため、「事業主による基本方針の表明等と労働者への周知」、「研修等による意識啓発」、「相談窓口等の明確化」、「休暇制度、勤務制度の整備」等を推奨します。加えて、「治療を受ける労働者から支援を求める申出があった場合の対応手順及び関係者の役割の整理」、「関係者間の円滑な情報共有のための仕組みづくり」が必要であることを伝えます。
③ 支援:各労働者への対応
産業医は、主治医から提供された情報を確認し、就業継続の可否、就業可能な場合の就業上の措置及び治療に対する配慮に関し産業医意見を述べます。また、主治医からの情報提供がない状態で、労働者から相談を受け、主治医の意見を求める際には、機微な健康情報を取り扱うこととなるため、産業医が就業の状況等に関する情報を主治医に提供し、主治医の意見を求める書類を作成することが多いです。
3 新様式:治療と仕事の両立支援カード |
両立支援を進めていく際の情報提供ツールとして活用する様式例として、2025年3月に「治療と仕事の両立支援カード」が新たに追加されました。以前からある様式例「勤務情報提供書」・「主治医意見書」を用いる場合と比べ、「勤務情報提供書」を作成せずとも、勤務情報(本人記載欄)、意見書(医師記載欄)を一つの書類で取得可能となる点はメリットと考えられます。

厚生労働省「第3回 治療と仕事の両立支援指針作成検討会」
資料1 「治療と仕事の両立支援指針」の参考資料等について より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001639641.pdf
4 努力義務化によって変わること |
法律上の努力義務が課されたことにより、指針に基づき、厚生労働大臣から権限を委任された都道府県労働局が指導、援助等を行うことができます。努力義務のため、取り組みをしなかったことによる法令上の罰則等を受けることはありませんが、行政から指導の対象になる可能性があります。また、法律上の規定や指針を根拠として、労働組合や労働者の過半数代表者等から、取り組みを求められることも想定されます。
5 治療と仕事の両立支援の推進に取り組むメリット |
深刻な少子高齢化と人口減少に直面する我が国において、貴重な労働者の一人一人が、心身の健康 を確保し、生きがいを持ってその能力を最大限発揮することができる環境を整備していくことの必要性が高まっています。少何らかの疾患により通院しながら働く労働者の治療と就業の両立を積極的に支援することは、疾患の治療等による退職を防ぎ、人材の確保につながります。また、他の労働者に対しても、働きやすい職場であるとの安心感を与えうるものであり、労働者のモチベーションの向上や生産性の向上、多様な人材の活用による組織や事業の活性化などに寄与することも期待されます。
6 産業医としての関わり(当事務所産業医活動の実際) |
「2 治療と仕事の両立支援における産業医の役割」で記載している事項を実施しています。また、衛生委員会等で治療と仕事の両立支援についての話題提供を行う、主治医意見を聴取する際、労働者本人、上司、人事担当者等から、事業場や業務内容、就業の状況等を聴取し、産業医・医師の見地も含め勤務情報提供書を作成し、主治医に送付することもあります。加えて、通院・治療による金銭的な不安を訴える労働者もいるため、人事担当者と連携しながら活用できる制度を紹介することもあります。
目次 7 まとめ |
- 改正労働施策総合推進法により、令和8年(2026年)4月1日に、事業場における治療と仕事の両立支援の推進が努力義務化される。
- 治療と仕事の両立支援において、関係者の一人として産業医がおり、支援活動が求められている。
- 事業者が治療と仕事の両立支援に取り組むことで、人材の確保とともに労働者のモチベーションの向上や生産性の向上、多様な人材の活用による組織や事業の活性化などに寄与することも期待される。
当事務所は、今回紹介した、治療と仕事の両立支援の推進も含め、事業場の現状、要望を聞きながら、親切、丁寧に対応します。
産業医選任、業務委託などでお困りの企業様は、お気軽にお問い合わせください。
産業医・労働衛生コンサルタント
髙畑 真司